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共依存症者の考え方は、幼児期の生育環境で育まれます。共依存症者は、同じく共依存症者の親のもとで育っています。親と同じタイプの共依存症になることもあれば、親とは異なるタイプの共依存症になることもあります。親のほうが本人よりも共依存傾向が強い場合もあります。
親子の間にある共依存に気付かないまま大人になった人々は、しばしば「生きづらさ」を抱えており、どこかで「報われない」「満たされない」「虚しい」という感覚を持っています。その虚しさを形容して、多くの人が「まるで心にぽっかりと穴が開いているようだ」と言います。この穴は、ありのままの自分が親に十分に認められなかったという幼児期の悲しさと喪失感から来ています。共依存症者は、両親から与えてもらえなかった受容を他人に求めて、他人と過度に関わろうとするか、もしくは、他人との関わりを避けて過度に自立するか、どちらかになります。いずれの場合も、心の内には傷ついた子ども時代の自分(インナーチャイルド)を抱えています。
「見捨てられ感情」も親との関係に由来する感情です。幼児期に親と離れた場合、幼児はその事実を合理的に解釈することができず、「見捨てられた」という気持ちをもちます(また、自分のせいだとして責める「罪悪感」も抱えます)。親からのネグレクト(育児放棄)や虐待、もしくは過干渉や束縛を受けた場合も、「見捨てられた」感情を覚えます。この場合の「見捨てられ」は比喩的な意味をもっています。つまり、子どもがありのままの自分を親から否定されたために「見捨てられた」と感じる感情です。
「心に開いた穴」と「見捨てられ感情」を抱えたまま大人になると、穴を埋めようとして、しがみついても大丈夫だと判断する人(たいていは恋人・配偶者や、わが子)にしがみつきます。他人から見捨てられそうになったときは、癒えていない心の傷が開き、大きな苦痛を覚えます。共依存者は、心の穴を埋めるために他人からの評価や承認を欲しています。そして、人にしがみつくことができなかったり、人にしがみついても満足感が得られないと、アルコールやギャンブルなど、他のものにしがみつきます。
親が他者との間に共依存関係を築いている場合も影響を受けます。子どもは、家庭内の人間関係や、家族と他人の人間関係の築き方を観察して「人間関係とはこのように築くものだ」という基本的なスキームを学びます。親が共依存症者である場合、子どもは共依存的な人間関係を内面に取り入れ、それをベースにして他人との関係を築きはじめます。 共依存は、虐待やネグレクトのようにわかりやすい形をとるとは限りません。たいていの共依存は外から見えることがなかなかなく、問題視されることもありません。親自身は、「よく気の利く人」「やさしい人」「よい相談相手」「尽くす人」などのように、周囲から好かれていたり、人格者のように見なされていることもあります。
たとえば、Aさんは、人と話していると、自分が相手にどう思われているのか気になり、会話を楽しめないという共依存傾向がありました。Aさんが「境界線のチェックリスト」と「共依存のチェックリスト」を見て、自己診断をしてみると、かなりの部分があてはまりました。しかし、Aさんはそこでハタと気がつきました。「これは私より、むしろ母にあてはまることばかり」。Aさんの母親は、聞き上手で多くの人から慕われていました。家に電話がかかってきて、長々と他人の人生相談を聞いていることもありました。ですが、電話が終わると、Aさんの母親は決まって「もう、話が長くてイライラしたわ」「私にもやることがあるのに、こちらの都合も考えてほしいわ」などと、愚痴をこぼしていました。そうした愚痴は家の中だけで、決して外に出すことはありませんでした。Aさんは母親から「こんなことは、他の人に言っちゃだめよ」と聞かされていました。
Aさんは母の姿勢から、知らず知らずのうちに、「人には裏表がある。一見やさしそうに話を聞いてくれる人でも、裏では愚痴を言っているかもしれない。だからあまり話しすぎないようにして、人に頼ってはいけない」というルールを学びました。また、本当は迷惑なことでも、決してそれを表に出さないのが優れた人付き合いなのだということも学びました。これらから、Aさんが他人との会話を楽しめない原因がわかってきました。Aさんは「相手が本当は何を考えているか疑心暗鬼になってしまう」「自分の話を聞いてもらうことに罪悪感を感じる」「自分の気持ちは人に言ってはいけない」という共依存にしばられていたのです。Aさんは、母の影響を客観的に理解することからはじめて、共依存を徐々に脱していきました。
共依存が生まれる心理的な原因は、自己肯定感の低さと、そこからくる怖れの感情にあります。たとえばAさんの母親の行動からは、「他人の話を聞かないと人から受け入れてもらえない」「本当の自分を出したら人から嫌われる」という怖れが読み取れます。この怖れから、Aさんの母親は「人に嫌われたら価値がなくなってしまう自分」を逃れて、人にしがみつきます。これらの感情は、心の奥底にひそんでいるので、もしかしたらAさんの母親自身も気付いていないかもしれません。母親が子どもに「私は、他人の話を聞かないと、人から受け入れられないの」と告げることはあまりありません。しかし、子どもは親の言動を見て、その言動がどのような意識的・無意識的な怖れに基づいているのか、驚くほど敏感に読み取るものです。そして、親が何を逃れようとして、何にしがみついているのかを悟ります。
以下に、親がもちがちな一般的な怖れの感情の例を挙げます。
・「人(世間)に対して恥ずかしい」「人(世間)に悪い・申し訳ない(罪悪感)」「人(世間)に迷惑をかけてはいけない」という言動→他人が作り出す感情の怖れ、感情へのしがみつきを表している(他人を敵に回したら生きていけない、他人から見て正しくいなければいけない等)
・「知らない人を信用してはいけない」「犯罪に巻き込まれるのが心配」「気をつけなさい」「イジメに合うのでは、騙されるのでは」→他人から被むる痛みの怖れ、被害へのしがみつきを表している(この世の中は信用ならない、悪人が多い、気をつけていないと被害に遭う、利用される等)。
・家に常にお金がない、お金の無駄遣いを厳しく罰する、お金とは苦労してやっと稼ぐものだと説く、お金があったらあっただけ使ってしまう、お金を他人には使うが自分には使わない→親の「お金」にまつわる怖れ、お金へのしがみつきを表している(お金は恐ろしいものだ、お金は厳しく管理しないと無くなる、お金で人をコントロールしたい等)。
・自身や他人の苦労話をよく語る、人生は辛いこと苦しいことの連続だと語る、自分は犠牲者だという、人生に勝ち組負け組があると教える、我慢や苦労をして一人前になれると説く→親の「人生」に対する怖れ、成功へのしがみつきを表している(人生は恐ろしいものだ、人生は辛いものだ、人生は勝たないと意味がない等)。
・子どもの成績が悪いと怒る、子どもが「普通」でないと矯正させようとする、子どもが決められたレールをはずれることを禁じる→親の「普通を外れる」ことへの怖れ、「普通」へのしがみつきを表している(普通でないことは恐ろしい、特殊であったら生きていけない、まともな人間になれない等)。
共依存者の回復には、幼児期の自分を冷静に振り返り、生育環境から自分がどのような影響を受けたのかを直視する必要があります。自分の育った家族のあり方を冷静に振り返ることは、時に葛藤を生みます。多くの人が、「私は普通の家に育った。私の親には何も問題がなかった」と考え、親が共依存症者であったことを認めることを拒否します。それは、子どもの自分が親に感じていた違和感(多くの場合、つきつめると孤独・痛み・寂しさ・怒り・憎しみ・悲しみ・被支配・窒息感などの感情が出てきます)を追体験することを怖れるからです。
しかし、大切なのは親を責めたり裁いたりすることではありません。親の感情を親のものとして理解することは、親とは異なる子どもの自分の感情を理解することにつながり、それは現在の自分を苦しめている考え方を解放するための手段になります。親の怖れから子どもの自分を救い出すことによって、怖れを超えて自分の人生に向き合えるようになるはずです。親が共依存者であったことを認める過程で憎しみや悲しみが出てきたら、それを感じている自分をやさしく抱きしめてあげましょう。
完璧な親は誰もいません。親もまた、その親から共依存を受け継いできました。またほとんどの場合、親は一人の人間として限界ある知識と環境の中で、最善と判断したことをしていました。親子といえど、別々の人間である以上、親が子どものことを全部分かってあげられることは不可能です。「親には親の限界があった」「しかし、私はその限界を超える大きい存在である」ことを悟ることで、共依存と決別して、今度は親の代わりに自分が自分に愛情深く接していく一歩を踏み出すことができます。
共依存は、回復が可能です。最終的には、「自分はこのままでいい」「人から認められてなくても、自分は自分」という自己肯定感を取り戻し、心にある穴を自分自身で埋めることで共依存から脱却していきます。また、「何があっても、自分だけは自分を見捨てない」という決心をすることで、人にしがみつかなくても、自分自身が安心していられる生き方を手に入れていきます。
以下に、共依存の回復の指針を挙げます。
@見ないふり型の共依存からの回復
□自分のその時々の感情がわかってくる。自分の考えていることと感じていることが区別できるようになる。
□自分の本心を大事にする。
□他人に思いやりをもつことと他人本位の考え方は違うということがわかる。
□自分のケアをしたうえで、余力で人のことを考える。
□必要なときは人に支えてもらってもいい。
□自分が傷ついたときはそれがわかり、適切に表現することができる。
□感情をオープンに、直接的に、落ち着いて表現する。
□相手が親密な関係を望まなければ、それを求めない。
□人のニーズと自分のニーズを区別して考える。
A自尊心欠如型の共依存からの回復
□物事を自分で決定したり判断したりすることができる。自分にはその能力がある。
□人がどう思うかより、自分の確信に従って行動する。
□自分は自分のままでよい。完璧であることより、自分らしくあることを優先させる。
□褒め言葉や贈り物を素直に受け取り、感謝する。
□相手の感情や行動を尊重するが、自分の感情や行動にも自信がある。
□自分が愛すべき人間で、価値ある人間だと思う。
□まず自分自身を肯定・受容する。他人からの肯定や受容を求めるときは、それが何のためなのかを考える。
□間違いを犯しても自尊心は傷つかない。
□自分に正直に生きる。間違ってもそれを認めることができ、他人の意見を冷静に聞くことができる。
□要求や欲求を適切に人に言うことができる。
□人と対等に接することができる。人と比べる必要がないことがわかる。
□自分で自分に安心していられる。
□他人との間で、健康的で優先順位のはっきりした境界線を保つことができる。
B服従型の共依存からの回復
□自分の精神的な健康を保つのは自分の責任である。自分を精神的に危機に陥れる人間関係からは立ち去ることができる。
□人が自分を拒絶したり怒ったりしても、自分の価値観に忠実でいられる。
□人の感情と自分の感情の区別がつく。自分の感情に責任をもち、人の感情の責任はその人にあると考える。
□自分の意見を尊重し、適切に表現することができる。
□自分の性的な親密さは、相手との本物の親密な人間関係の上に成り立つ。愛のないセックスはしない。
□人とフェア―な人間関係を築くことができる。
□自分のまわりに害があるときは、それに気付く事ができて、自分で自分を救い出すことができる。
□過去に自分を苦しめた人間関係のパターンから学ぶ。
□自分を苦しめた相手に相応の罰を与えたいという欲求を手放そうとしている。
Cコントロール型の共依存からの回復
□自立した大人はたいてい、自分の面倒は自分でみることができると信じる。
□たとえそれが自分にしっくりこなくても、人がどう感じてどう行動するかはその人の選択だという事実を受け入れる。
□頼まれたときにだけアドバイスをする。
□人がその人自身でいるのを好ましく見守る。
□好意や贈り物を与えるときは、見返りを求めていないか注意する。
□性的魅力やカリスマ性は自分自身が健康的である結果出てくるもので、人に好かれたいために利用するものではない。
□人とはバランスがとれて、対等で、フェアな関係を求める。
□自分で自分のニーズを満たすことができる。助けを求めるときは、他人に期待せずにお願いすることができる。
□自分の欲求とニーズを表現した結果どうなるかは、自分のコントロールできることではなく、自分の及ばない偉大な力に委ねられていると信じる。
□自分を尊重しつつ、人と協調したり、折り合い点を探ったり、交渉したりすることができる。
□他人に尊重と思いやりをもって接する。
□自分自身を成長させたいと思っている人を支えることができる。
□自分自身の純粋さを信じ、他人の純粋さも同じく信じることができる。
D回避型の共依存 からの回復
□人が自分に愛情をもち健康的に接することができるように行動する。
□視野を広くもち、人をありのままに受け入れるようになる。
□自分にとって適切で為になるなら、感情的・身体的・性的な親密さを受け入れる。
□健康的で満ち足りた人間関係を作るために、依存症から回復しようとしている。
□衝突を解決するためにストレートな話し合いをする。
□自分の心の内を人に話すことで、人との関係をあたたかく発展させていくことができる。
□自己肯定感を高めることによって、誰も自分をコントロールできないということを知る。
□境界線を守りながら、人と親密な関係を維持することができるので、親密さを恐れない。
□人への称賛や尊敬を表現することができる。
□人に甘えたり、頼みごとをすることは、自分を弱めることではないと知る。
□ほどほどさを受け入れ、自分を甘やかしたり、自分にリラックスすることを許す。
(参照:Recovery Patterns of Codependence, CoDA Co-Dependents Anonymous Inc.)
なお、共依存についてもっと知りたい方に、以下の本をおすすめします。人間関係の依存症について、カテゴリー分けが若干違う部分もありますが、新しい発見があるはずです。
西尾和美『アダルト・チルドレンと癒し』、学陽書房、1997
伊藤明『恋愛依存症』、実業之日本社、2015
ピア・メロディ・水澤都加佐訳『恋愛依存症の心理分析―なぜ、つらい恋にのめり込むのか』、大和書房、2001
斎藤学『家族依存症』新潮社、1999
→「パートナーや子どもに依存しないための3箇条」を読む
→共依存についてのちょっといい言葉を読む
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